「その他 - 突入電流防止回路の設計方法」の版間の差分

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ここでは、突入電流防止回路の設計方法について記載する。<br>
ここでは、突入電流防止回路の設計方法について記載する。<br>
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突入電流防止回路の設計では、突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗orセメント抵抗orサーミスタ)の最小抵抗値、耐量サージエネルギー、定格電流を求める必要がある。<br>
突入電流防止回路の設計では、突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)の最小抵抗値、耐量サージエネルギー、定格電流を求める必要がある。<br>
設計方法を記載するにあたり、以下のパラメータを使用する。<br>
設計方法を記載するにあたり、以下のパラメータを使用する。<br>
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* ACライン電圧VINの実行値VINRMS
* ACライン電圧V<sub>IN</sub>の実行値V<sub>INRMS</sub>
*: 100[V]
*: 100[V]
* ACライン電圧VINの変動率
* ACライン電圧V<sub>IN</sub>の変動率
*: ±10[%]
*: ±10[%]
* 出力電力POUT
* 出力電力P<sub>OUT</sub>
*: 200[W]
*: 200[W]
* 電源効率η
* 電源効率η
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* 力率cosφ
* 力率cosφ
*: 0.8
*: 0.8
* 入力電解コンデンサCINの容量値
* 入力電解コンデンサC<sub>IN</sub>の容量値
*: 330[uF]
*: 330[uF]
* 周囲温度TA
* 周囲温度TA
*: 10[℃]~35[℃]
*: 10[℃]~35[℃]
* 突入電流IRUSHの仕様
* 突入電流I<sub>RUSH</sub>の仕様
*: 30[A]
*: 30[A]
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== 設計手順 1 : 突入電流の仕様から突入電流防止素子の最小抵抗値を求める ==
== 設計手順 1 : 突入電流の仕様から突入電流防止素子の最小抵抗値を求める ==
突入電流防止素子の最小抵抗値RMINは、ACライン電圧VINのピーク値VPEAK、突入電流IRUSHの仕様によって決まる。<br>
突入電流防止素子の最小抵抗値RMINは、ACライン電圧V<sub>IN</sub>のピーク値V<sub>PEAK</sub>、突入電流I<sub>RUSH</sub>の仕様によって決まる。<br>
一般的には、20[A]~40[A]が突入電流の仕様となる。<br>
一般的には、20[A]~40[A]が突入電流の仕様となる。<br>
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まず、ACライン電圧vINのピーク値VPEAKを求める。<br>
まず、ACライン電圧V<sub>IN</sub>のピーク値V<sub>PEAK</sub>を求める。<br>
ACライン電圧VINの実行値VINRMSが100[V]、その変動は10[%]なので、ACライン電圧VINのピーク値VPEAKは以下の値となる。<br>
ACライン電圧V<sub>IN</sub>の実行値V<sub>INRMS</sub>が100[V]、その変動は10[%]なので、ACライン電圧V<sub>IN</sub>のピーク値V<sub>PEAK</sub>は以下の値となる。<br>
<math>V_{PEAK} = (V_{INRMS} \times 1.1) \times \sqrt{2} = 155.6 \mbox {[V]}</math><br>
<math>V_{PEAK} = (V_{INRMS} \times 1.1) \times \sqrt{2} = 155.6 \mbox {[V]}</math><br>
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しかし、サーミスタは温度によって抵抗値が変化する。<br>
しかし、サーミスタは温度によって抵抗値が変化する。<br>
周囲温度TAの最大値が35[℃]なので、35[℃]の時の最小抵抗値がRMINである必要がある。<br>
周囲温度TAの最大値が35[℃]なので、35[℃]の時の最小抵抗値がR<sub>MIN</sub>である必要がある。<br>
例えば、35[℃]の時の抵抗値が25[℃]の抵抗値と比較して0.8倍に低下すると仮定すると、25[℃]の時において必要な最小抵抗値RMIN(25[℃])は以下の値となる。<br>
例えば、35[℃]の時の抵抗値が25[℃]の抵抗値と比較して0.8倍に低下すると仮定すると、25[℃]の時において必要な最小抵抗値R<sub>MIN</sub>(25[℃])は以下の値となる。<br>
<math>R_{MIN} (25 \mbox {[ ℃ ]}) = R_{MIN} \times \frac{1}{0.8} = 6.48 [\Omega]</math><br>
<math>R_{MIN} (25 \mbox {[ ℃ ]}) = R_{MIN} \times \frac{1}{0.8} = 6.48 [\Omega]</math><br>
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安全設計する場合には、上式で求めた値に対してディレーティングを考慮する。<br>
安全設計する場合には、上式で求めた値に対してディレーティングを考慮する。<br>
ディレーティングを80[%]とすると、突入電流防止回路に必要な定格電流I<sub>RATED</sub>は以下の値となる。<br>
ディレーティングを80[%]とすると、突入電流防止回路に必要な定格電流I<sub>RATED</sub>は以下の値となる。<br>
IRATED=IINRMS0.8=3.86[A]<br>
<math>I_{RATED} = \frac{I_{INRMS}}{0.8} = 3.86 \mbox {[A]}</math><br>
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突入電流防止回路の種類には、以下の2種類がある。<br>
突入電流防止回路の種類には、以下の2種類がある。<br>
* 突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗orセメント抵抗orサーミスタ)のみを使用したパッシブICL
* 突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)のみを使用したパッシブICL
* 突入防止素子(温度ヒューズ抵抗orセメント抵抗orサーミスタ)に並列にスイッチング素子(リレー/トライアック/サイリスタ)を使用したアクティブICL
* 突入防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)に並列にスイッチング素子(リレー・トライアック・サイリスタ)を使用したアクティブICL
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突入電流防止回路の種類<br>
'''突入電流防止回路の種類'''<br>
突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗orセメント抵抗orサーミスタ)のみを使用したパッシブICLの場合、通常動作時は、突入電流防止素子に電流が流れているので、<br>
突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)のみを使用したパッシブICLの場合、通常動作時は、突入電流防止素子に電流が流れているので、<br>
突入電流防止素子が必要な定格電流IRATEDを満たす必要がある。<br>
突入電流防止素子が必要な定格電流I<sub>RATED</sub>を満たす必要がある。<br>
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一方、突入防止素子(温度ヒューズ抵抗orセメント抵抗orサーミスタ)に並列にスイッチング素子(リレー/トライアック/サイリスタ)を使用したアクティブICLの場合、<br>
一方、突入防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)に並列にスイッチング素子(リレー・トライアック・サイリスタ)を使用したアクティブICLの場合、<br>
通常動作時は、スイッチング素子に電流が流れているので、スイッチング素子が必要な定格電流I<sub>RATED</sub>を満たす必要がある。<br>
通常動作時は、スイッチング素子に電流が流れているので、スイッチング素子が必要な定格電流I<sub>RATED</sub>を満たす必要がある。<br>
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2020年8月29日 (土) 10:50時点における版

概要

ここでは、突入電流防止回路の設計方法について記載する。

突入電流防止回路の設計では、突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)の最小抵抗値、耐量サージエネルギー、定格電流を求める必要がある。
設計方法を記載するにあたり、以下のパラメータを使用する。

  • ACライン電圧VINの実行値VINRMS
    100[V]
  • ACライン電圧VINの変動率
    ±10[%]
  • 出力電力POUT
    200[W]
  • 電源効率η
    90[%]
  • 力率cosφ
    0.8
  • 入力電解コンデンサCINの容量値
    330[uF]
  • 周囲温度TA
    10[℃]~35[℃]
  • 突入電流IRUSHの仕様
    30[A]
ErectricCircuit InrushCurrentPrevention 1.jpg



設計手順 1 : 突入電流の仕様から突入電流防止素子の最小抵抗値を求める

突入電流防止素子の最小抵抗値RMINは、ACライン電圧VINのピーク値VPEAK、突入電流IRUSHの仕様によって決まる。
一般的には、20[A]~40[A]が突入電流の仕様となる。

まず、ACライン電圧VINのピーク値VPEAKを求める。
ACライン電圧VINの実行値VINRMSが100[V]、その変動は10[%]なので、ACライン電圧VINのピーク値VPEAKは以下の値となる。


突入電流IRUSHの仕様が30[A]なので、突入電流防止素子の最小抵抗値RMINは以下の値となる。
突入電流防止素子に温度ヒューズ抵抗やセメント抵抗を用いた場合は、下式で求めた値が最小抵抗値RMINとなる。


しかし、サーミスタは温度によって抵抗値が変化する。
周囲温度TAの最大値が35[℃]なので、35[℃]の時の最小抵抗値がRMINである必要がある。
例えば、35[℃]の時の抵抗値が25[℃]の抵抗値と比較して0.8倍に低下すると仮定すると、25[℃]の時において必要な最小抵抗値RMIN(25[℃])は以下の値となる。



設計手順 2 : 電源投入時のサージエネルギーを求める

次に電源投入時のサージエネルギーEを求める。

電源投入時において、突入電流防止素子にかかるサージエネルギーEは以下の値となる。
下式より、サージエネルギーEは抵抗値依存症がない。また、このサージエネルギーEに耐える素子を選定する必要がある。


突入電流防止素子(サーミスタ・温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗)のデータシートには、下図のようなサージエネルギー耐量のグラフ(耐ラッシュ特性)がある。
また、表などに瞬時エネルギー耐量が記載されている。

ErectricCircuit InrushCurrentPrevention 2.jpg


エネルギー耐量のグラフが記載されている場合には、グラフの値を超えないように選定する。
瞬時エネルギー耐量が記載されている場合には、サージエネルギーEより大きな素子を選定する。


設計手順 3 : 通常使用時に流れる電流の最大値を求める

ACライン電圧VINの実行値VINRMSが100[V]、ACライン電圧VINの変動率が±10[%]、出力電力POUTが200[W]、電源効率ηが90[%]、力率cosφが0.8なので、
通常使用時に流れる電流の最大値IINRMSは以下の値となる。


上式において、VINRMSの係数は0.9であるが、ACライン電圧VINの実行値VINRMSが最小値となる時、通常使用時に流れる電流が最大値IINRMSとなる。
そのため、ACライン電圧VINの実行値VINRMSに対して、変動10[%]を引いた値としている。

安全設計する場合には、上式で求めた値に対してディレーティングを考慮する。
ディレーティングを80[%]とすると、突入電流防止回路に必要な定格電流IRATEDは以下の値となる。


突入電流防止回路の種類には、以下の2種類がある。

  • 突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)のみを使用したパッシブICL
  • 突入防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)に並列にスイッチング素子(リレー・トライアック・サイリスタ)を使用したアクティブICL


突入電流防止回路の種類
突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)のみを使用したパッシブICLの場合、通常動作時は、突入電流防止素子に電流が流れているので、
突入電流防止素子が必要な定格電流IRATEDを満たす必要がある。

一方、突入防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)に並列にスイッチング素子(リレー・トライアック・サイリスタ)を使用したアクティブICLの場合、
通常動作時は、スイッチング素子に電流が流れているので、スイッチング素子が必要な定格電流IRATEDを満たす必要がある。

※補足
突入電流防止素子にサーミスタを用いた場合、通常使用時に流れる電流の最大値に対して、余裕のある定格電流のものを選定してはならない。
余裕のありすぎるものを使用すると、温度上昇が少なくて抵抗値が下がらず、電源への供給不足となる場合があるからである。
突入電流の仕様がない場合、電源で使用される素子(ブリッジダイオード等)の定格電流を突入電流の仕様とする。