その他 - 突入電流防止回路の設計方法

提供:MochiuWiki - SUSE, Electronic Circuit, PCB
ナビゲーションに移動 検索に移動

概要

ここでは、突入電流防止回路の設計方法について記載する。

突入電流防止回路の設計では、突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)の最小抵抗値、耐量サージエネルギー、定格電流を求める必要がある。
設計方法を記載するにあたり、以下のパラメータを使用する。

  • ACライン電圧VINの実行値VINRMS
    100[V]
  • ACライン電圧VINの変動率
    ±10[%]
  • 出力電力POUT
    200[W]
  • 電源効率η
    90[%]
  • 力率cosφ
    0.8
  • 入力電解コンデンサCINの容量値
    330[uF]
  • 周囲温度TA
    10[℃]~35[℃]
  • 突入電流IRUSHの仕様
    30[A]
ErectricCircuit InrushCurrentPrevention 1.jpg



設計手順 1 : 突入電流の仕様から突入電流防止素子の最小抵抗値を求める

突入電流防止素子の最小抵抗値RMINは、ACライン電圧VINのピーク値VPEAK、突入電流IRUSHの仕様によって決まる。
一般的には、20[A]~40[A]が突入電流の仕様となる。

まず、ACライン電圧VINのピーク値VPEAKを求める。
ACライン電圧VINの実行値VINRMSが100[V]、その変動は10[%]なので、ACライン電圧VINのピーク値VPEAKは以下の値となる。


突入電流IRUSHの仕様が30[A]なので、突入電流防止素子の最小抵抗値RMINは以下の値となる。
突入電流防止素子に温度ヒューズ抵抗やセメント抵抗を用いた場合は、下式で求めた値が最小抵抗値RMINとなる。


しかし、サーミスタは温度によって抵抗値が変化する。
周囲温度TAの最大値が35[℃]なので、35[℃]の時の最小抵抗値がRMINである必要がある。
例えば、35[℃]の時の抵抗値が25[℃]の抵抗値と比較して0.8倍に低下すると仮定すると、25[℃]の時において必要な最小抵抗値RMIN(25[℃])は以下の値となる。



設計手順 2 : 電源投入時のサージエネルギーを求める

次に電源投入時のサージエネルギーEを求める。

電源投入時において、突入電流防止素子にかかるサージエネルギーEは以下の値となる。
下式より、サージエネルギーEは抵抗値依存症がない。また、このサージエネルギーEに耐える素子を選定する必要がある。


突入電流防止素子(サーミスタ・温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗)のデータシートには、下図のようなサージエネルギー耐量のグラフ(耐ラッシュ特性)がある。
また、表などに瞬時エネルギー耐量が記載されている。

ErectricCircuit InrushCurrentPrevention 2.jpg


エネルギー耐量のグラフが記載されている場合には、グラフの値を超えないように選定する。
瞬時エネルギー耐量が記載されている場合には、サージエネルギーEより大きな素子を選定する。


設計手順 3 : 通常使用時に流れる電流の最大値を求める

ACライン電圧VINの実行値VINRMSが100[V]、ACライン電圧VINの変動率が±10[%]、出力電力POUTが200[W]、電源効率ηが90[%]、力率cosφが0.8なので、
通常使用時に流れる電流の最大値IINRMSは以下の値となる。


上式において、VINRMSの係数は0.9であるが、ACライン電圧VINの実行値VINRMSが最小値となる時、通常使用時に流れる電流が最大値IINRMSとなる。
そのため、ACライン電圧VINの実行値VINRMSに対して、変動10[%]を引いた値としている。

安全設計する場合には、上式で求めた値に対してディレーティングを考慮する。
ディレーティングを80[%]とすると、突入電流防止回路に必要な定格電流IRATEDは以下の値となる。


突入電流防止回路の種類には、以下の2種類がある。

  • 突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)のみを使用したパッシブICL
  • 突入防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)に並列にスイッチング素子(リレー・トライアック・サイリスタ)を使用したアクティブICL
ErectricCircuit InrushCurrentPrevention 3.jpg


突入電流防止回路の種類
突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)のみを使用したパッシブICLの場合、通常動作時は、突入電流防止素子に電流が流れているので、
突入電流防止素子が必要な定格電流IRATEDを満たす必要がある。

一方、突入防止素子(温度ヒューズ抵抗・セメント抵抗・サーミスタ)に並列にスイッチング素子(リレー・トライアック・サイリスタ)を使用したアクティブICLの場合、
通常動作時は、スイッチング素子に電流が流れているので、スイッチング素子が必要な定格電流IRATEDを満たす必要がある。

※補足
突入電流防止素子にサーミスタを用いた場合、通常使用時に流れる電流の最大値に対して、余裕のある定格電流のものを選定してはならない。
余裕のありすぎるものを使用すると、温度上昇が少なくて抵抗値が下がらず、電源への供給不足となる場合があるからである。
突入電流の仕様がない場合、電源で使用される素子(ブリッジダイオード等)の定格電流を突入電流の仕様とする。