応用数学 - 常微分方程式の基礎

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概要

微分方程式(differential equation)とは、未知関数とその導関数の関係式として記述される関数方程式である。
微分方程式は、常微分方程式(ordinary differential equation)と偏微分方程式(partial differential equation)に分類される。

yをxの1変数関数とする時、yは または と記述する。
この時、変数x、関数y、関数yの微分(導関数)である を含んだ方程式を、常微分方程式という。

微分方程式を満たす関数 、または、 を、その方程式の解または解曲線という。
微分方程式における解の関数(未知関数)を求めることを「微分方程式を解く」という。


微分方程式の解

全ての微分方程式に解が存在するとは限らない。
適当な条件を満たす初期値問題(initial value problem)については解の存在が保障されている。

微分方程式の初期値問題の解には、以下の種類がある。

  • 一般解 (general solution)
  • 特殊解 (particular solution)
    特別解あるいは特解とも言う。
  • 特異解 (singular solution)



初期値問題

初期値問題とは、未知関数のある点における値を初期条件として備えた微分方程式のことである。
初期値問題は、コーシー問題(Cauchy problem)とも呼ばれる。

現象を微分方程式でモデル化することは、ある初期値問題を解くことと同義である場合が多い。
そのような場合、微分方程式は与えられた初期条件に対して現象がどのように時間発展するかを特徴付ける発展方程式と見なされる。


一般解と特殊解

n階常微分方程式の初期値問題において、n個の任意定数を含む解を、一般解という。
一般解の任意定数に特別な値を代入して得られる解を、特殊解(特別解または特解)という。

1つの定数Cに対して、以下の初期値問題の解曲線を とする。



定数Cを動かした時、解曲線 は様々な関数を表す。
このように、常微分方程式 の無数の解曲線を表す任意定数Cを含んだ解 が一般解である。

一般解は、微分方程式の解曲線の集まり、すなわち、解曲線群を表す。
特殊解は、解曲線群の中の個々の解曲線を表す。


一般解と特殊解の例

  • 1階常微分方程式
    • 一般解
    • 特殊解
      Cに0を代入した時の特殊解 :
      Cに1を代入した時の特殊解 :


Ordinary Differential Equations Basis 1.png


  • 2階常微分方程式
    • 一般解
    • 特殊解
      を代入した時の特殊解 :



特異解

常微分方程式の一般解の任意定数において、どのような値を代入しても得られない解が存在する場合がある。
このような解を、特異解という。

つまり、特異解は一般解に含めることができない解である。


特異解の例

  • 常微分方程式
    • 一般解
      (直線群)
    • 特異解
      (放物線)


Ordinary Differential Equations Basis 2.png



解の存在と一意性

特別な場合の初期値問題については、解の存在とその一意性が保障されている。

定理(解の存在と一意性)

2変数関数f(x, y)が点(a, b)を含むxy平面上のある領域において、連続かつ有限の値をとるならば、
初期値問題  は、少なくとも1つの解をもつ。

さらに、その領域で、f(x, y)がyに関して偏微分可能であり、 が連続ならば、ただ1つの解をもつ。



微分方程式の解曲線の直観的意味

直観的意味.
川の各地点ごとに流れの方向が決まっている時、曲折しながら流れる川で、水面に浮かぶ笹船の描く曲線が微分方程式の解曲線である。

解説.
以下の微分方程式を考える。


ここで、 は、点(x, y)における接線の傾きである。
平面上の各点(x, y)に傾き、f(x, y)の小矢印を記入するとき、方向の場が与えられる。

曲線  上のどの点にも同一の傾きkの小矢印が記入できる。
そのため、曲線  を等傾線と呼ぶことがある。

下図に示すように、 という初期条件が与えられれば、点(a, b)を通って方向の場を表す小矢印と各点で接する曲線が、
微分方程式  の解曲線である。


川の各地点ごとに流れの方向が決まっている時、曲折しながら流れる川で、水面に浮かぶ笹船の描く曲線が微分方程式の解曲線である。

Ordinary Differential Equations Basis 3.png



基礎方程式 (支配方程式)

根本的な物理法則を数学的な方程式で表したものを、基礎方程式、または、支配方程式(governing equations)という。
それらの方程式は、常微分方程式、または、偏微分方程式で表されることが多い。

基礎方程式の例

  • マクスウェル方程式(電磁気学)
  • シュレーディンガー波動方程式(量子力学)
  • ハイゼンベルグ運動方程式(量子力学)
  • ナビエ-ストークス方程式(流体力学)
  • アインシュタイン方程式(一般相対性理論)



常微分方程式の例

ニュートンの冷却法則

ニュートンの冷却法則とは、物体の温度の低下(上昇)速度は、外気との温度差に比例する。
(変数分離系)

xは熱した物質の温度で、時間tを変数とする関数であり、xsは周囲の環境の温度で定数である。
また、 は冷却の強さを表す定数(熱伝達率)であり、熱容量、表面積、熱伝導率等に依存する。

この時、 の一般解は、


したがって、 (C : 任意の定数)となる。
とする時、定数Cは となる。
この時、特殊解は、 となる。

初期値を とする時、 と表すことができる。

例題1.
フライパンの温度x0を100[℃]、部屋の温度xsを20[℃]とする。
フライパンを50分間放置した場合(x(t) = 50)、ニュートンの冷却法則における定数kを求めよ。

解答.
 より、


したがって、 となる。

例題2.
温度20[℃]の室内で温度60[℃]のコーヒーを5分間放置する場合、コーヒーは何[℃]になるか求めよ。
この部屋では、 とする。

解答.
 より、



人口増加の法則

人口(一般に生物の個体数)の増加率は、その時点での人口に比例する。
(時刻tにおける人口 : x(t))

人口(一般に生物の個体数)の増加は、その時点での人口に比例する。
時刻tにおける人口をx(t)とする時、以下に示す微分方程式が成立する。
(マルサスの法則)
一般解は、 (Cは、任意定数)

kは出生率aと死亡率bとの差 である。(kは増殖率と呼ばれる)
(出生率 > 死亡率)ならば、人口は時間とともに指数関数的に増加する。

  • マルサスの法則
    まだ、人口が少なく、食住環境が良好ならば、人口はマルサスの法則に従う。

  • ロジスティック方程式 (死亡率bが人口に比例)
    一方、次第に人口が増加し、食料や住居環境が悪くなってくると、人口増加は抑制される。
    例えば、食料の供給が制限されると、死亡率は一定ではなく、人口に比例する。

  • ゴムパーツ方程式 (死亡率bが人口の対数に比例)
    または、人口の対数に比例する。


ニュートンの運動方程式

物体の加速度は、それに作用する力に比例し、その質量に反比例する。
この法則を数式で表すと、物体の位置xを未知関数とする微分方程式で表される。
(F : 力、 m : 質量、  : 加速度)

ここで、Fは物体に働く力、 mは物体の質量、xは物体の時間tにおける位置を表す関数、 は物体の加速度である。
また、 は物体の速度である。