概要
線形微分方程式とは、
をxのみの関数とする。
この時、以下の形の微分方程式をN階線形常微分方程式という。

上式において、
の時を同次方程式、
の時を非同次方程式と呼ぶ。
線形常微分方程式には、連立1次方程式の解の構造との類似性があり、線形代数とのアナロジーがある。
定数係数2階線形常微分方程式は、電磁気学、動力学、量子力学、振動現象等の記述に現れる。
解の存在と一意性
定理(存在定理) :
xのみの関数
が、区間Iで連続とする。
この時、I内の点
における以下の初期条件のもとで、以下のN階線形常微分方程式の解は区間Iでただ1つ存在する。
初期条件 :
N階線形常微分方程式 :
存在定理により、N階線形常微分方程式の解の存在が保障され、当該初期条件を満たすものがただ1つに決まる。
1階常微分方程式の初期条件は1つであり、N階常微分方程式では、N個の初期条件がないと解は一意に定まらない。
存在定理により、当該問題を解くための数値解析プログラムを作成することに対する正当性が保障される。
定数係数2階線形常微分方程式(同次方程式)の解全体の集合
以下の定数係数2階線形常微分方程式(同次方程式)について考える。

上式の解関数全体の集合をVとする。

次に、集合Vは、実数上のベクトル空間(2次元線形空間)となること(すなわち、Vは平面ベクトル全体と同じ構造を持つこと)を記述する。
定理1 :
解関数
を考える。
この時、次の関数u, vも集合Vの要素である。
定理2 (重ねあわせの原理) :
同次方程式 :
の解である2つの関数y1, y2を考える。
この時、次の形も同次方程式の解である。
定理1の(1)は、ベクトルにおける和に関する性質(ベクトルの和はベクトルである)に対応する。
定理1の(2)は、ベクトルのスカラー倍の性質に対応する。
定理2は、定理1から導かれる。
定理2は、線形常微分方程式が「線形」と呼ばれる由来である。
定理1および定理2により、同次方程式の解はベクトル(線形代数)とのアナロジーで扱うことができるということが分かる。
定理3 :
定数係数2階線形常微分方程式(同次方程式)
の解全体の集合Vは、実数上の線形空間を定める。
定理3は、同次方程式の解全体の集合は、線形空間(ベクトル空間)を定める。
すなわち、同次方程式の解関数は、ベクトルと同様に扱うことができる。(定理1を参照)
同次方程式の解は、線形代数とのアナロジーで扱うことができる。
解関数の線形独立性
定義 :
定数係数2階線形常微分方程式 (同次方程式)
の解となる関数y1, y2が、
ある区間Iにおいて、少なくとも1つは0でない実数k1, k2を用いて以下のように記述できる時、関数y1とy2はIで線形従属(1次従属)であるという。
また、2つの関数y1, y2が線形従属でない時、線形独立(1次独立)であるという。
上の定義は、ベクトルの線形従属・線形独立の定義とのアナロジーである。
線形同次微分方程式の解関数の線形従属性・線形独立性を判定するには、次の定理を使用する。
定理4 :
定数係数2階線形常微分方程式 (同次方程式)
の解関数y1, y2について、
次のロンスキー行列式
を考える。
この時、考察中の区間Iにおいて以下が成立する。
定理4により、ロンスキー行列式を使用すると、簡単な演算のみで線形独立性が判定できる。
(1) ![{\displaystyle y_{1},\,y_{2}{\mbox{ が 線 形 独 立 }}\iff W[y_{1},\,y_{2}]\neq 0}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/46e3dae75dbf66dcfd7596e313b8182686e007de)
(2) ![{\displaystyle y_{1},\,y_{2}{\mbox{ が 線 形 従 属 }}\iff W[y_{1},\,y_{2}]=0}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/c54d05c1bbe1aabd5971869d83a7390f3d22bc51)
同次方程式の解
定理5 :
集合Vを定数係数2階線形常微分方程式
の解全体の集合とする。
この時、線形独立な2つの関数
が存在し、任意の関数
は、y1とy2の線形結合
で、ただ1通りに表される。
上記のような線形独立な解の組 (y1, y2) を基本解という。
基本解は、線形代数でいう基底ベクトルに対応する。
定理の意味 :
基本解 y1, y2が見つかれば、他の全ての解(一般解)yもそれらを使って、以下のように表すことができる。
基本解 (y1, y2) で全ての解関数yを表現できる。
非同次方程式の解
定理6 :
定数係数2階線形常微分方程式 (非同次方程式)
の1つの特殊解をvとする。
この時、上式(1)の解yは、定数係数2階線形常微分方程式 (同次方程式)
の基本解 y1, y2を使用して、
次式のように記述できる。
同次方程式の例題
例題1 :
微分方程式
と関数
について以下の問いに答えよ。
(1)
は、上式(1)の解であることを示せ。
(2) y1とy2は、任意の区間で線形独立であることを示せ。
(3) y1とy2の線形結合の関数
も上式(1)の解であることを示せ。
例題1 (1)の解答
がともに方程式
を満たすことを示せばよい。
について、
なので、上式(1)の左辺に代入すると、

ゆえに、
は、上式(1)の解である。
について、
なので、上式(1)の左辺に代入して、

ゆえに、
は、上式(1)の解である。
例題1 (2)の解答
ロンスキー行列式
を計算して、線形独立性を判定する。
![{\displaystyle {\begin{aligned}W[y_{1},y_{2}]&={\begin{vmatrix}y_{1}&y_{2}\\{\frac {dy_{1}}{dx}}&{\frac {dy_{2}}{dx}}\end{vmatrix}}={\begin{vmatrix}e^{x}&e^{2x}\\e^{x}&2e^{2x}\end{vmatrix}}\\&=2e^{3x}-e^{3x}\\&=e^{3x}\end{aligned}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/9cd78ed6ec95288de08b318ada0baf06d02a5dd3)
ゆえに、
は、任意の区間で零関数ではないため、y1とy2とは線形独立である。
例題1 (3)の解答
が方程式
を満たすことを示せばよい。


これらを、上式(1)の左辺に代入すると、

ゆえに、
は、上式(1)の解である。
特性方程式
に対して、以下をこの方程式の特性方程式(characteristic equation)という。

上式(2)の特性方程式の解λ1, λ2が分かれば、上式(1)の基本解y1, y2を求めることができる。
したがって、定数係数2階線形常微分方程式(同次方程式)の一般解を求めるには、特性方程式を解けばよいことになる。
特性方程式
の解は、判別式
の値により以下の3種類が考えられる。
のとき
- 相異なる2つの実数解をもつ。

のとき
- 1つの実数解(重解)をもつ。

のとき
- 共役な2つの複素数解をもつ。

定理 :
定数係数2階線形常微分方程式
の基本解と一般解は、特性方程式の解の種類により以下の3通り(1)(2)(3)で求められる。
(1) 実数解の場合 :
特性方程式:
特性方程式の相異なる2つの実数解:
基本解:
一般解:
(2) 実数重解の場合 :
特性方程式:
特性方程式の1つの実数解(重解):
基本解:
一般解:
(3) 共役複素数解の場合 :
特性方程式:
特性方程式の共役な2つの複素数解:
基本解:
一般解:
定数係数2階線形常微分方程式 (同次方程式)の例題
例題 1 :
以下の微分方程式の一般解を求めよ。
解答 :
上式の特性方程式は、
より、特性方程式の解は
(2つの実数解)
したがって、基本解の組は
である。
よって、一般解は次式となる。

定数係数2階線形常微分方程式 (非同次方程式)
定理 :
定数係数2階線形微分方程式 (非同次方程式)
の一般解yは、次式で求めることができる。
定数係数2階線形常微分方程式(非同次方程式)の特殊解の求め方として、以下の3つがある。
(1) 定数変化法(variation of constants)
(2) 未定係数法(method of undetermined coefficients)
(3) 記号法(symbolic method)
定数変化法
以下の定理の証明を与える方法を定数変化法という。
定理 :
定数係数2階線形常微分微分方程式
の基本解を(y1, y2)とする時、
以下のv(x)は、定数係数2階線形常微分方程式
の特殊解である。
ここで、
は、ロンスキー行列式であり、
は原始関数を表す。
定数変化法では、g(x)が考察中の区間Iで連続であれば、どんな関数に対しても特殊解v(x)を求めることができる。
ただし、g(x)によっては、原始関数をよく知られた関数で表せない場合もある。
定数変化法の例題1 :
以下の微分方程式の特殊解v(x)を定数変化法で求め、一般解を求めよ。
同次方程式
の基本解は、
、
一般解は、
とおいて、定数変化法の公式を用いて特殊解v(x)を求める。
![{\displaystyle {\begin{aligned}W[y_{1},\,y_{2}]&={\begin{vmatrix}e^{-2x}&e^{-x}\\-2e^{-2x}&-e^{-x}\end{vmatrix}}\\&=-e^{-3x}+2e^{-3x}\\&=e^{-3x}\end{aligned}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/127190969596920ddee39cf604dd6adf93297625)
![{\displaystyle {\begin{aligned}v(x)&=-y_{1}\int {\frac {y_{2}\,g(x)}{W[y1,\,y2]}}dx+y_{2}\int {\frac {y_{1}\,g(x)}{W[y_{1},\,y_{2}]}}dx\\&=-e^{-2x}\int {\frac {e^{-x}\,x}{e^{-3x}}}dx+e^{-x}\int {\frac {e^{-2x}\,x}{e^{-3x}}}dx\\&=-e^{-2x}\int {xe^{2x}}dx+e^{-x}\int {xe^{x}}dx\\&=-e^{-2x}\left({\frac {1}{2}}xe^{2x}-{\frac {1}{2}}\int {e^{2x}}\right)dx+e^{-x}\left(xe^{x}-\int {e^{x}}\right)dx\\&=-{\frac {1}{2}}x+{\frac {1}{4}}+x-1\\&={\frac {1}{2}}x-{\frac {3}{4}}\\&={\frac {2x-3}{4}}\end{aligned}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/04271881f25a4460568f0dffab03f909024d09d6)
したがって、与式の一般解は次式となる。

未定係数法
未定係数法とは
定数係数2階線形常微分方程式 (非同次方程式)
において、
g(x)が特定の形(例えば、xの多項式やeaxの形)の場合、特殊解v(x)の形を推定できる場合がある。
この場合、v(x)の形は、以下の定数係数2階線形常微分方程式 (同次方程式)の特性方程式の解とg(x)の形で決まる。

このように、g(x)が特定の形の場合に有効な方法が未定係数法である。
ただし、未定係数法は万能な方法ではなく、
定数係数2階線形常微分方程式 (非同次方程式)において、g(x)が以下のような形の場合に有効な方法である。
(1) xの多項式の形。
(2) eaxの形。
(3)
の形。
(4)
の形。
(5) 上記(1)〜(4)の組み合わせでできている形。
以下、上記の場合を考慮して、g(x)の形、特性方程式の解、および特殊解v(x)の形の間の関係を記述する。
特殊解の形
多項式
を定める。

(
の時は、
は定数となる)
このとき、定数係数2階線形常微分方程式 (非同次方程式):
におけるg(x)の形に応じて、
4通りに分類して、特殊解v(x)の形を見る。
の場合の特殊解v(x)
の時

の時

の時

の場合の特殊解v(x)
の時

の時

の時

または
の場合
の時

の時

または
の場合
の時

の時

未定係数法の例題
例題1 :
以下の微分方程式の特殊解v(x)を未定係数法で求め、一般解を求めよ。
※
の形なので、
の形になる。
上式の特性方程式は、
より、
したがって、上式の基本解は
となり、一般解は 
次に、非同次方程式
の特殊解v(x)を求める。
v(x)の形は、g(x)がpn(x)の場合の特殊解v(x)はPn(x)になることを考慮すると、
の形になることがわかる。
以下、このA1、および、A0を求める。

これらを与式
の左辺へ代入すると、

これが右辺の多項式xに等しくなるためには、
となる必要がある。
よって、
したがって、特殊解は以下になる。

以上より、与式の一般解は以下になる。
