オシロスコープ - トリガー機能
概要
オシロスコープでは、多様なトリガーツールを利用できる。
オシロスコープのトリガーは、オシロスコープのタイムベースを入力信号に同期させることにより、安定した表示を実現している。
アナログオシロスコープでは、トリガーによって掃引発生器が始動して、それにより、水平掃引が垂直信号に同期する。
デジタルオシロスコープでは、別の方法で同じ効果を実現しており、デジタイザ(ADコンバータ)が連続的に動作して、
その一方で、トリガーイベントが捕捉メモリ内の相互に関連しあったデータを指示して、表示、計測、その後の処理に使う信号データを固定化している。
最近のデジタルオシロスコープには、単純なエッジトリガー、複雑なスマートトリガー、高度な拡張トリガーが搭載されている。
ここでは、トリガー機能の使用方法を記載する。
エッジトリガー
エッジトリガーは、最も一般的なトリガー方法である。
エッジトリガーでは、入力波形がトリガー閾値レベルを事前設定の傾き(正、負、正負両方)でクロスした時に、オシロスコープのトリガーが働く。
トリガーにヒステリシスがあると、オシロスコープのトリガー作動条件として、信号がヒステリシス幅を超えて遷移することが必要になるので、
ノイズ耐性が得られる。
多くのオシロスコープでは、垂直軸単位の0.3から0.5のヒステリシスレベルが使われている。
トリガーソースには、入力チャンネル、外部トリガー入力、ライン電力および、一部では組み込み高速エッジ信号が使われる。
各ソースの傾き、極性、トリガーしきい値は、他のソースとは個別に設定できる。
下図に、オシロスコープのエッジトリガー設定を示す。
エッジトリガー設定要素にはトリガーのソース、レベル、傾き、カップリングが含まれる。
エッジトリガーの設定では、ソース、トリガーレベル、傾き、カップリング条件として、
ACあるいはDCカップリングを低周波帯域または高周波帯域の除去を含めて設定できる。
周波数選択カップリングパスを使うと、不要信号を減衰させることができる。
低周波帯除去では、トリガー信号パスに50[kHz]のハイパスフィルタを挿入し、高周波帯除去では、50[kHz]ローパスフィルタを使用する。
このような周波数選択カップリングモードは、スイッチングモード電源のトラブルシューティングなどの用途に利用される。
高周波帯除去では、電源関連の信号をトリガーしやすくなり、低周波帯除去では、スイッチングレギュレーター信号にトリガーするのが簡単になる。
オシロスコープの中には、[Find Level]ボタンが備えられ、そのボタンを押下すると、現在のトリガーソースのトリガーレベルが自動表示されるものも存在する。
トリガーアイコン(上図右)も便利で、トリガー設定条件がまとめて表示されている。
トリガーホールドオフ
ホールドオフは、データ捕捉のたびに複数のトリガーイベントが生じる場合に利用されるトリガー機能である。
この機能を利用すると、オシロスコープは余分なトリガーイベントを無視して、捕捉時に1つしかトリガーイベントがないかのように働く。
これにより、表示が安定する。
下図は、時間によるホールドオフを設定する例である。
表示された波形は、時間幅7[us]以内に8パルスがバーストしている。
8個のトリガーイベントが可能である。
時間によるトリガーホールドオフを使用すると、立ち上がりエッジの最初から最後までで、7[us]幅のパルスバーストに対し安定にトリガーできる。
- トリガーイベント
- オシロスコープのトリガー機能を通常条件として作動させる信号条件のことである。
- ホールドオフ
- 指定時間またはイベント回数の間はトリガーを無視させる命令である。
上図では、ホールドオフが7[us]のバースト期間内は、トリガーを無視するよう設定されている。
オシロスコープのトリガー機能が有効に設定されていると、トリガーは7マイクロ秒ごとに作動することになる。
7[us]はバースト期間なので、次に続くトリガーは、次のバーストの開始ポイントで作動する。
イベントによるホールドオフでも同様のことが可能である。(上図では、8個のトリガーイベントに対してホールドオフしている)
これが、パルスバーストの全期間になる。
捕捉は、各パルスバーストに自動的に同期する。
注意点は、ホールドオフは、バースト内の特定ポイントへのトリガーを保証するものではなく、単にバーストに同期するものである。
同期は信号が中断するまでは保持され、信号が回復した後は(異なったポイントになる)、再同期するための時間が掛かる。
ホールドオフ開始カウンターは、ホールドオフカウンターが各捕捉の開始ポイントでリセットされるかどうか(捕捉開始の設定)、
または、連続的に蓄積されるかどうか(最後のトリガー時間の設定)を決定するものである。
トリガー入力は常時アクティブであることに注意する。
トリガーパルスを受信すると、捕捉中でなくても、ホールドオフカウンタが捕捉開始ポイントで再スタートされるまで、ホールドオフ条件としてカウントされる。
同様に、同期プロセスが連続している場合は、最後のトリガー時間でカウントを開始するよう設定することにより、全てのトリガーイベントをカウントすることができる。
ホールドオフは便利なツールだが、使いこなすにはある程度の経験が必要になる。
メーカーから提供されるマニュアル、アプリケーションノート、チュートリアルが役に立つ。
スマートトリガー
ミドルレンジのオシロスコープは、トリガー信号のタイミングおよび振幅のパラメーターを基準とするスマートトリガーメニューを備えている。
スマートトリガーには、グリッチ、パルス幅、ウィンドウ、区間(周期)、ドロップアウト(信号欠落)、ロジックパターン、
ラント(正常なHighレベルまたはLowレベルに到達しないパルス信号)、TV信号、スルーレート等が使用される。
スマートトリガーの例として、パルス幅トリガーについて記載する。
パルス幅トリガーは、信号の幅に反応するもので、一般的にはパルスに適用される。
パルス幅が「~より広い」「~より狭い」「範囲内」「範囲外」というトリガーするための設定があり、複雑な信号をトリガーする上で便利なツールである。
下図に、2.3[us]から2.7[us]の範囲のパルス幅を条件とするパルス幅トリガーの例を示す。
下図では、500[ns]から4[us]の間で、8種類の異なるパルス幅があるPWMの波形を、パルス幅トリガーを使用して2.5[us]幅のパルスをトリガーしている。
幅トリガー設定ダイアログボックスは、範囲内条件のパルス幅にトリガーするための設定であり、この結果、2.5[us]幅のパルスがトリガーイベントになる。
その他のスマートトリガーも同様に、信号特性に基づく広範囲のトリガーイベントを生成できる。
除外トリガー
除外トリガーは、波形異常にはトリガーするが、通常波形にはトリガーしないようにできる。
これは、範囲外というトリガー条件を利用するスマートトリガーをベースとするものである。
除外トリガーは、波形異常やグリッチを検出するのに便利である。
除外トリガーの利点は、このトリガーが計測が容易な公称波形特性を基準として使用するので、異常に関する情報が不要なことである。
また、幅基準の除外トリガーを利用することにより、クロック信号中の異常パルスを発見できる。
下図に、公称幅48[ns]、周期250[ns]のクロック波形の例を示す。
下図では、オシロスコープは公称パルス幅48[us]とは異なる幅のパルスにトリガーする。
除外トリガーは、通常パルスへのトリガーを防止して、それら通常パルスとは異なるパルス(異常パルス)にトリガーするよう設定できる。
また、オシロスコープはトリガー条件が満足されない限りデータを捕捉しない。
異常データの取得は、オシロスコープのデータ更新速度に依存することなく実行される。
パルス幅パラメータは、クロック信号の平均幅(この例では48[us])を確定するために利用され、この値を、除外トリガーの基本条件として利用する。
ここでのパルス幅トリガーは、パルス幅が公称値48[us]から、±800[ps]の範囲外にあるという条件に設定されている。
その結果、公称値から少なくとも800[ps]のずれがあるパルスだけが、オシロスコープのトリガーにかかる。
捕捉後トリガー
捕捉完了後に動作する特殊なトリガーを備えたオシロスコープも多数ある。
例えば、デジタルあるいはソフトウェアトリガー、ゾーントリガー、計測トリガー等がある。
これらのトリガーは、オートトリガー機能によって波形を取得して、このデータ捕捉に続いて、データの中から必要なトリガー条件を探す。
トリガー条件が見つかれば、波形表示はトリガーイベントの位置をオシロスコープトリガー指示ポイントに合致するようシフトする。
計測トリガー
計測トリガーは、取得波形を走査し各々のポイントで特性値を計測して、ユーザ設定条件が検出されると、
オシロスコープはその検出ポイントとトリガーポイントを一致させる。
計測トリガーを利用すると、計測結果を基にオシロスコープのトリガーを作動させることができる。
これにより、任意のオシロスコープ計測パラメータを利用できる。
特定の計測値にトリガーするための計測条件として、「~未満」「~以上」「範囲内」「範囲外」「条件なし」が適用できる。
オシロスコープは、最初にデータを取得して、計測条件が観測されると、計測位置をトリガー指示ポイントにシフトさせる。
下図に、幅計測を基準とする計測トリガーの一例を示す。
下図では、トリガー条件は10[ns]幅の正パルスになっており、この幅のパルスが取得データ内にあると、そのパルスの終端にトリガーポイントを合わせる。
ソフトウェアトリガー
ソフトウェアトリガーは、ハードウェアトリガーポイントに最も近接するトリガーレベルクロスポイントを検出するために使われる。
このトリガーは、最近接ポイントを検出後に、波形が特定のトリガーレベルおよび傾きに合致するよう、波形の時間的オフセットを調整する。
このソフトウェアトリガーは、指定のトリガーポイント周りに時間軸ゲートを設定して、その内部で閾値をクロスするかどうかを調べるよう働く。
ソフトウェアトリガーにヒステリシスを手動設定することもできる。
マルチステージトリガー / 条件付きトリガー
マルチステージトリガーは2個または3個のトリガーソースを使う。
イベントは、基本トリガー(エッジ、パルス幅、パターン等)と同様に正確に設定されるが、
設定された1個(もしくはそれ以上)のトリガーイベントが、最終トリガーソースからのトリガーを作動させる役割を果たす。
最も初期のマルチチャネルトリガーは、2個のトリガーを利用する限定付き(条件付き)トリガーである。
限定要素がイベントAにトリガーを設定して、そのトリガーソースがイベントBにトリガーする。
ノーマルトリガーモードの場合は、トリガーはイベントBの後で自動リセットされる。
イベントAには、エッジ、ステート、ロジックパターン、あるいはパターンステート(ユーザ設定のイベント回数または時間に渡って維持されるパターン)がある。
イベントBの選択肢は、イベントAの種類によって変わる。
イベントAがデジタルパターンあるいはパターンステートであり、イベントBはエッジのみということも可能である。
限定付きトリガーは、バス上にあるICのトラブルシューティングを行う際に便利である。
ICが作動状態にある時のみ、ICの信号を観測できる。チップセレクトにトリガーを用意し、任意のバス信号にトリガーすればよい。
カスケードトリガー
カスケードトリガーは、複数のイベントに基づいて作動する、より高度なトリガーである。
最初のイベントまたは連続する複数のイベント(最大3個)にトリガーを設定して、その後の特定条件に対してトリガーさせるものである。
下図は、代表的なカスケードトリガーおよび各段のセットアップの画面を合成表示したものを示す。
下図において、パラメータP1は、捕捉ウィンドウ全体にわたる複数回の捕捉の全部の立ち上がり時間の指標である。
パラメータP2は、ゲート内での立ち上がり時間計測によるトリガーポイント近傍の値のみを示す。
パラメータP2の値は、トリガー作動時の立ち上がり時間であり、全ての立ち上がり時間の概略範囲は、300[ps]から344[ps]である。
下図のトリガーに対応する立ち上がり時間計測値は、326[ps]となる。
チャンネル2の波形(ピンクの波形)は、左端のエッジ(0.5[V]を超える正エッジ)でトリガーイベントを生成して、そこから200[ns]ホールドオフする。
その後、チャンネル1の波形(黄色の波形)が0[V]を超える正エッジでイベントBを生成する。
これらの準備が整った位置で、325[ps]を超える立ち上がり時間(イベントC)を見つけ、そのポイントにトリガーしている。
カスケードトリガーには、トリガーを作動させるための限定要素列におけるイベントとして計測値、ロジックパターン、スマートトリガーが利用できる。
トリガー帯域幅
オシロスコープの信号パスおよびトリガーパスは一般的に異なるため、エッジトリガーの帯域幅が信号パスの帯域幅と異なる。(通常は低い)
スマートトリガーの帯域幅は、一般的に、エッジトリガー帯域幅よりも相当に低くなる。
各々のトリガーモードにおけるトリガー帯域幅は、製造元提供のデータシートに記載されている。