オシロスコープ - オシロスコープの基礎

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概要

最適なオシロスコープを選定するには、仕様の正しい理解が必要となる。

ここでは、オシロスコープの基本的な仕様項目について記載する。


周波数帯域

オシロスコープは、直流から交流までの変化を観測できる。

測定可能な周波数の上限を仕様で規定している。
ただし、オシロスコープの周波数帯域は-3[dB](本来の振幅の約70[%])で規定されているので、
仕様に規定された最高周波数で波形観測すると、振幅は本来の-3[dB]となる。

オシロスコープの入力の周波数特性は、ガウシアンカーブに類似したものであるため、
正確な振幅測定を行うには、オシロスコープの仕様に規定された周波数帯域の1/3~1/5の周波数の信号までとなる。

ただし、ハイエンドのオシロスコープでは、周波数帯域を有効に利用するため、
周波数特性を高域まで平坦に伸ばし、その後急に減衰するようにしたり、AD変換後の信号をDSPによって補正したりするものがある。

図. 100[MHz]のオシロスコープの周波数特性




立ち上がり時間

オシロスコープは周波数帯域が規定されているため、理想的な立ち上がり時間が0[s]の信号を入力しても、
オシロスコープの画面には有限の立ち上がり時間の波形が表示される。


定数Kの値は、0.35~0.45の範囲であり、オシロスコープの周波数特性曲線とパルス応答特性によって変わる。
周波数帯域が1[GHz]未満のオシロスコープでは0.35、周波数帯域が1[GHz]以上のオシロスコープでは0.40~0.45を使用する。

オシロスコープに表示される波形の立ち上がり時間は、信号の立ち上がり時間とオシロスコープの立ち上がり時間が合わさったものになる。
したがって、正確な立ち上がり時間を測定するためには、信号の立ち上がり時間の4~5倍の立ち上がり時間がオシロスコープで必要となる。

図. 立ち上がり時間の誤差




サンプルレート

オシロスコープは、AD変換器により波形の振幅を等間隔にサンプルする構造となっているため、
サンプリング周波数が速いほど波形を細かく見ることができる。
一般的に、観測した周波数成分の5~10倍以上のサンプルレートが必要となる。

図. 入力信号とサンプル点の関係



上図では、サンプル間隔が200[ns]の時、パルス波形が見つけることができない可能性がある。
また、サンプル間隔が20[ns]の時、パルスがリンギングしていることが分からない。


レコード長

サンプルした波形を記録する長さを、レコード長(メモリ長)という。
レコード長は、ポイント数またはワード数で表現される。

サンプルした波形を全て画面上に表示するだけであれば、レコード長と画面の表示分解能が同じであれば問題ない。
そのため、安価なオシロスコープでは数kポイントのレコード長となっている。
取り込んだ波形を時間軸方向に拡大する場合等は、長いレコード長が必要となる。
また、複数の現象をトリガーごとに繰り返して記録する場合、1回の観測で波形を取り込むレコード長を指定して、複数回繰り返して波形を記録する。

最近のオシロスコープでは、レコード長の長い製品が多い。
以下に、レコード長の長いオシロスコープの利用が望ましい分野の事例を示す。

  • メカトロニクス機器の駆動観測
    メカトロニクス機器等は、電子回路で作られた制御部は高速に動作するが、モータやエンジン等の機械は、電子回路に比べて低速の動作しかできない。
    電子回路の動作と機械の動作を同時に観測する場合、広い周波数帯域と長い観測時間が必要となるため、レコード長の長いオシロスコープが必要となる。

  • シリアル通信波形と伝送データの同時観測
    シリアル通信の波形と伝送情報を同時に観測する場合、データ列で構成された伝送情報の波形を広帯域にオシロスコープに取り込む必要があるため、
    レコード長の長いデジタルオシロスコープが必要になる。

    最近のオシロスコープには、様々なシリアル通信に対応したデコード表示ができるものがある。
    例えば、I2C、SPI、RS-232/422/485/UART、USB 2.0、CAN、CAN FD、LIN、FlexRay等の幅広いシリアル通信規格に対応しているため、
    ファームウェアのデバッグにオシロスコープが利用できる。
    図. 5シリーズMSOによるCAN信号の観測

  • 突発現象の観測
    突発現象を効率よく見つけるには、広帯域で長時間の記録ができることが必要である。
    これにより突発現象を捉えやすくなる。



最大入力電圧

ミドルクラス以上のオシロスコープでは、入力インピーダンスを1[MΩ]と50[Ω]で切り替えることができる。
標準(受動)プローブを使用して測定する場合は1[MΩ]入力インピーダンスで測定、
50[Ω]伝送路の高周波信号を測定する場合やアクティブプローブを利用する場合は50[Ω]入力インピーダンスで測定する。

オシロスコープの入力回路は、おおよそ下記のようになっている。

図. 1[GHz]帯域以下のオシロスコープの入力回路



50[Ω]入力回路には、終端抵抗として50[Ω]抵抗が接続されている。
このため、入力された信号が終端抵抗に流れて抵抗の許容電力を超えると破損する。

下記には、テクトロニクスの主なオシロスコープの最大入力電圧を示すが、50[Ω]入力の最大入力電圧は5[Vrms]と、低い電圧となっている。

表. テクトロニクスの主なオシロスコープの最大入力電圧
オシロスコープの型名 1[MΩ]入力 50[Ω]入力
TBS1000 300[Vrms] -
TDS2000 300[Vrms] -
TBS2000 300[Vrms] -
MSO / DPO2000 300[Vrms] -
MDO3000 300[Vrms] 5[Vrms]
TPS3000 300[Vrms] -
THS3000 300[Vrms] -
TDS3000 150[Vrms] 5[Vrms]
MDO4000 300[Vrms] 5[Vrms]
MSO / DPO5000 300[Vrms] 5[Vrms]
5シリーズMSO 300[Vrms] 5[Vrms]
6シリーズMSO 300[Vrms] 5[Vrms]



入力感度

入力感度は画面の縦軸目盛りを基準に定義されている。

安価なオシロスコープは入力感度の幅が狭く、ミドルクラス以上になると入力感度の幅が広くなる。
機種によって入力感度が異なるため、小振幅の信号を観測する際は注意が必要である。

オシロスコープは、電子回路の動作を観測する製品であるため、生体計測等の高感度測定を要求する用途では、以下のようなアンプを用意する必要がある。

図. 外付けの差動プリアンプ ADA400A



DCゲイン確度

オシロスコープは記録された電圧を取得できるので、デジタルボルトメーターのような使い方もできるが、
DCゲイン確度が1~3[%]であるため、高い測定精度を期待できない。

最近のオシロスコープには、デジタルボルトメーターと同じような表示ができる製品があるが、
製品の仕様書に記載された測定精度で十分であることを事前に確認する必要がある。


垂直軸分解能

オシロスコープでは、8ビット以上の分解能のAD変換器を搭載している。
また、AD変換器で得たデータを平均化処理することによって、より高い分解のデータに変換する機能(ハイレゾ)を持つ製品もある。

下表は、テクトロニクスのオシロスコープの垂直軸分解能である。

表. テクトロニクスの主なオシロスコープの垂直軸分解能

オシロスコープ型名 A-D変換器分解能 ハイレゾ分解能 TBS1000 8 - TDS2000 8 - TBS2000 8 16 MSO/DPO2000 8 - MDO3000 8 11 TPS2000 8 - THS3000 8 - TDS3000 9 - MDO4000 8 11 MSO/DPO5000 8 11 5シリーズMSO 12 16 6シリーズMSO 12 16
12ビットの高速AD変換器を搭載したオシロスコープには、有効ビット数という仕様が規定されている。
有効ビット数とは、ダイナミックなAD変換器の特性を表現する指標であり、有効ビット数を比較することにより、ノイズや歪みの影響が分かる。


オシロスコープのトリガー機能

波形観測の基準点がトリガー点になる。

実際の波形観測では、シンプルなエッジトリガーが使用されるが、
最近のオシロスコープでは、信号を組み合わせてトリガーや観測信号の特長を抽出して、トリガーを得ることもできるようになっている。

エッジトリガー

トリガーソース、レベル、スロープ(向き)を決めて観測の基準点(トリガー点)とする時、
トリガーソースとなる波形は、オシロスコープに接続されている信号のいずれかを選択できる。

図. レベルトリガーの設定


トリガーとなる信号にノイズが重畳している場合は、
ローパスフィルタ・ハイパスフィルタの設定やトリガー閾値のヒステリシスを上げる設定を行えば、安定したトリガー点を得ることができる。
もし、フィルタを使用しても安定したトリガー点が得られない場合は、他の信号からトリガーを得ることになる。

エッジトリガーを設定した場合は、合わせてトリガーモードの設定も行う。
これにより、オシロスコープのトリガー回路の動作は決まる。

下図に示すように、トリガーモードは3種類ある。
繰り返し現象を観測する場合は、ノーマルモードまたはオートモードを選択する。
単発現象を観測する場合は、シングルモードを選択する。

図. トリガーモードの選択


オシロスコープでは、周期の長い複雑な波形を観測する場合、
トリガー検出を禁止する時間を設定することで、安定した波形を観測するホールドオフ機能を持っているが、
波形メモリの長いオシロスコープでは、シングルモードを使用して波形を取り込んだ後、スクロール機能を使用して波形を観測する方が便利である。

高度なトリガー

高度なトリガーは、組み込み機器のデジタル回路を評価するために便利な機能である。
ミドルクラス以上のオシロスコープでは、エッジトリガー以外に様々なトリガーが用意されている。

例えば、テクトロニクスのMDO4000には、搭載されている高度なトリガーとして、
シーケンス(Bトリガー)、パルス幅、タイムアウト、ラント、ロジック、セットアップ / ホールド時間、立ち上がり / 立ち下がり時間、
ビデオ、拡張ビデオ(オプション)、パラレル(MDO4MSOが必要)がある。

高度なトリガーは、測定器メーカーや製品によって搭載されている機能が異なるので注意が必要である。


パラメーター測定および演算機能

オシロスコープは、取り込んだ波形データを表示するだけではなく、
波形のデータ値の表示や、目的にあった演算を行い加工する機能を持っている。

波形パラメータ測定

カーソル表示に加えて、各種波形パラメータを抽出できる機能を持っている。
観測できる波形パラメータは測定器メーカーや製品によって異なるので、この機能を利用する場合は、製品仕様を事前に確認する必要がある。

例えば、テクトロニクスのMDO4000では、30項目の波形パラメータの抽出ができ、同時に8項目の表示ができる。

  • MDO4000にある30項目の波形パラメータ
    周波数、周期、遅延、立ち上がり時間、立ち下がり時間、正のデューティサイクル、負のデューティサイクル、正のパルス幅、負のパルス幅
    バースト幅、位相、正のオーバシュート、負のオーバシュート、トータルオーバシュート
    P-P、振幅、ハイ、ロー、最大値、最小値、平均値、サイクル平均値、実効値、サイクル実効値
    正のパルスカウント、負のパルスカウント、立ち上がりエッジカウント、立ち下がりエッジカウント、面積、サイクル面積


四則演算機能

取り込んだ波形データに四則演算を行い、新たなデータを作り出す機能である。

例えば、この機能を使う用途して、電源回路のスイッチング損失測定がある。
スイッチング素子の両端の電圧を差動プローブで測定、スイッチング素子に流れる電流を電流プローブによって測定する。

得られた電圧値と電流値を乗算すれば、損失した電力が得られる。
ただし、オシロスコープの精度は高くないので、測定した損失の確度を規定することは難しい。
このため、測定結果は目安として利用することになる。

図. スイッチング電源のスイッチング損失測定


スイッチング損失を測定する際には、電圧と電流の位相を合わせる必要があるため、下図のようなツールを使用して測定前にスキュー調整を行う。

図. デスキューパルスジェネレーターとデスキューフィクスチャ


FFT演算機能

オシロスコープは時間軸の信号波形を観測するものであるが、FFT演算を行って周波数軸で波形を観測することができる。
ただし、オシロスコープに搭載されたAD変換器の分解能が高くないので、高ダイナミックレンジの観測ができない。

観測した信号にノイズが重畳している場合、FFT演算機能を使うとノイズ成分からノイズ発生源を特定できることがある。

FFT演算を行う場合は、窓関数を設定することになる。
オシロスコープに取り込んだ波形を切り出してそのままFFT演算を行うと、切り出した波形の両端が不連続となり、
結果として、FFT演算した結果のパワースペクトラムがピークの近傍に漏れ出してしまう。

図. 時間窓長Tが入力信号周の整数倍でないときのFFT分析例


そこで、取り込んだ波形に窓関数をかけて、漏れ(リーケージ)を防ぐようにする。
窓関数には様々なものがあるが、一般には方形(レクタンギュラ)、ハニング、ハミング、フラットトップ等がある。

図. ハニング窓をかけた時のFFT分析例


時間ジッタ測定機能

オシロスコープで取り込んだ波形データからヒストグラム作り、統計処理によって時間ジッタを求めることができる。
時間ジッタは、高速デジタル回路や通信などのエラーレートと相関があるため、
時間ジッタ測定をオシロスコープだけで実現できることは、評価の効率化につながる。

時間ジッタには、周期ジッタ(P)、サイクル間ジッタ(C)、タイムインターバルエラー(TIE)があり、それぞれの関係は下図の通りである。

図. 様々なジッタ測定


周期ジッタは、トリガー点を固定すれば、波形を重ね書きすることにとって簡単に観測される。
タイムインターバルエラーを測定するには、外部から基準クロックを得るか、クロック位置を推定する機能が必要となる。
最近のオシロスコープでは、全てのジッタを測定できる機能が搭載されているものがある。