概要
CRC (Cyclic Redundancy Check) は、データ通信やストレージシステムにおいて使用されているエラー検出技術である。
送信データに対して特定の数学的な演算を行い、チェックサムと呼ばれる値を生成することである。
CRCでは、データを2進多項式として扱う。
例えば、データビット列 1101 は、多項式   として表現される。
この多項式に対して、あらかじめ決められた生成多項式による除算を行い、その余りをCRC値として使用する。
生成多項式の選択は、CRCの性能を大きく左右する重要な要素である。
標準的なCRCとして、CRC-16やCRC-32がある。
CRC-16では、 のような生成多項式が使用され、16ビットのチェックサムを生成する。
CRC-32では、32ビットのチェックサムを生成して、より高い信頼性を提供する。
CRCの計算過程では、ガロア体   上での演算が行われる。
この体では加算は排他的論理和 (XOR) に対応し、乗算は通常の多項式乗算を   上で行う。
これにより、効率的なハードウェア実装が可能となっている。
CRCのメリットは、実装が簡単であり、ハードウェアでの高速な処理が可能なことである。
また、バースト誤りの検出に効果的である。
しかし、誤り訂正能力はなく、検出のみが可能という制限がある。
イーサネット通信、ZIPファイル、ディスクドライブ等の様々な場面でCRCが使用されている。
CRCの実装方法としては、直接的な多項式除算の他に、ルックアップテーブルを使用する方法も一般的であり、ソフトウェアでの処理速度を大幅に向上させることができる。
CRCの生成多項式
CRCの生成多項式は、ガロア体   上の多項式である。
係数が0か1のみの2進多項式を使用する。
CRCでは、以下に示すような特徴がある。
- 演算は全て 上で行われ、加算は排他的論理和 (XOR) に対応する。
 - 乗算は 上の多項式乗算として実行される。
 - 生成多項式g(x)は、誤り検出能力を決定する要素である。
 
例えば、CRC-16の生成多項式は、  である。
この多項式の各項の係数は0か1のみであり、  上の要素となっている。
CRCの計算手順
- データにCRCのビット数分の0を付加する。
 - データを生成多項式で除算する。
 - 余りがCRC値となる。
 
CRC-16
CRC-16では、生成多項式として0xA001 (反転された0x8005, 2[byte]で行うためMSBである1を捨てる) を使用する。
これは、一般的なCRC-16-IBMの規格である。
実際には、ルックアップテーブルを使用することにより、計算を高速化する。
ルックアップテーブルは初期化時に1度だけ生成され、以降の計算で再利用する。
これにより、ビット単位の演算を減らし、パフォーマンスを向上させることができる。
- エラー検出能力
- 単一ビットエラーを100%検出可能
 - 2ビットエラーも多くの場合で検出可能
 - バースト (連続) エラーも高い確率で検出可能
 
 
CRC値の計算を以下に示す。
- 初期値として0xFFFFを使用する。
 - データの各バイトに対して、現在のCRC値との演算を行う。
 - ルックアップテーブルを使用して、次のCRC値を計算する。
 
CRC-16は、データ通信やストレージシステムでの一般的なエラー検出に適している。
また、異なる多項式や初期値を使用することにより、他のCRC-16バリアントも実装可能である。
 public class CRC16
 {
    // CRC-16のルックアップテーブル
    private readonly ushort[] table;
 
    // CRC-16で使用する生成多項式 (x16 + x15 + x2 + 1 --> 0x18005)
    // 0x8005を反転した値である0xA001を使用
    private const ushort polynomial = 0xA001;
 
    public CRC16()
    {
       // 256要素のルックアップテーブルを初期化
       table = new ushort[256];
 
       // ルックアップテーブルの生成
       for (ushort i = 0; i < 256; i++)
       {
          ushort value = i;
 
          // 8ビット分の処理を行う
          for (int j = 0; j < 8; j++)
          {
             // 最下位ビットが1の場合
             if ((value & 0x0001) == 1)
             {
                // 1ビット右シフトし、生成多項式とXOR演算を行う
                value = (ushort)((value >> 1) ^ polynomial);
             }
             else
             {
                // 最下位ビットが0の場合は、単純に1ビット右シフト
                value = (ushort)(value >> 1);
             }
          }
 
          // 計算した値をテーブルに格納
          table[i] = value;
       }
    }
 
    /// <summary>
    /// CRC-16値を計算するメソッド
    /// </summary>
    /// <param name="data">CRCを計算する対象のバイト配列</param>
    /// <returns>計算されたCRC-16値</returns>
    public ushort Calculate(byte[] data)
    {
       // CRC初期値として0xFFFFを設定
       ushort crc = 0xFFFF;
 
       // 入力データの各バイトに対してCRC計算を実行
       foreach (byte b in data)
       {
          // 現在のCRC値の下位バイトとデータバイトのXOR演算を行い、その結果をテーブルのインデックスとして使用
          byte index = (byte)(crc ^ b);
 
          // CRC値を8ビット右シフトし、テーブルの値とXOR演算を行う
          crc = (ushort)((crc >> 8) ^ table[index]);
       }
 
       // 最終的なCRC値を返す
       return crc;
    }
 }
 // 使用例
 
 // CRC-16を計算するためのテストデータ
 string text = "Hello, World!";
 
 // 文字列をUTF-8でエンコードしてバイト配列に変換
 byte[] data = System.Text.Encoding.UTF8.GetBytes(text);
 
 // CRC-16値を計算
 CRC16 crc16 = new CRC16();
 ushort crcValue = crc16.Calculate(data);
 
 // 結果を4桁の16進数として表示
 Console.WriteLine($"CRC-16: 0x{crcValue:X4}");
CRC-32
標準的なCRC-32の生成多項式として0xEDB88320 (反転された0x04C11DB7, 4[byte]で行う) を使用する。
これは、一般的なCRC-32-IBM (別名 : CRC-32、PKZIP CRC-32) の規格である。
CRC-32の生成多項式は、  である。
- 最終XOR値 : 0xFFFFFFFF (ビット反転による)
- CRC計算の最後のステップとして、計算結果と0xFFFFFFFFとのXOR演算を行うことを意味する。
 - この操作は、計算された値の全てのビットを反転 (0→1、1→0) することと同じである。
 
- 目的
- エラー検出能力を向上させる。
 - 全てが0のデータの場合でも、意味のあるCRC値を生成する。
 
 
 - 入力反転 : あり
- 各バイトのビット順序を反転して処理することを意味する。
 - 例 : 入力バイト10110001は、10001101として処理する。
 - ルックアップテーブルの生成時にこの処理が組み込まれる。
 
- 目的
- シリアル通信でのエンディアンの違いに対応する。
 - データの送受信時のビット順序の違いを吸収する。
 
 
 - 出力反転 : あり
- 最終的なCRC値のビット順序を反転することを意味する。
 - これは、上記の"最終XOR値"の適用と同時に行われる。
 
- 目的
- ハードウェア実装との互換性を確保する。
 - シフトレジスタベースの実装との整合性
 
 
 
上記の操作は、CRC-32-IBMの規格を定義する重要な要素であり、以下に示すようなメリットがある。
- 異なるハードウェア・ソフトウェア間での互換性の確保
 - 強力なエラー検出能力の実現
 - データの先頭・末尾での特殊なビットパターンへの対応
 - 実装の簡略化 (特に、ハードウェア実装において)
 
以下の例では、ルックアップテーブルを使用して計算を高速化している。
初期値として0xFFFFFFFFを使用して、最終的にビット反転を行う。
 public class CRC32
 {
    private readonly uint[] table;
    private const uint polynomial = 0xEDB88320;
 
    public CRC32()
    {
       table = new uint[256];
 
       // CRCテーブルの生成
       for (uint i = 0; i < 256; i++)
       {
          uint temp = i;
          for (int j = 0; j < 8; j++)
          {
             if ((temp & 1) == 1)
             {
                temp = (temp >> 1) ^ polynomial;
             }
             else
             {
                temp >>= 1;
             }
          }
 
          table[i] = temp;
       }
    }
 
    public uint Calculate(byte[] data)
    {
       uint crc = 0xFFFFFFFF;
 
       // CRC値の計算
       foreach (byte b in data)
       {
          byte index = (byte)((crc & 0xFF) ^ b);
          crc = (crc >> 8) ^ table[index];
       }
 
       return ~crc; // 最終的なビット反転
    }
 }
 // 使用例
 
 // CRC-32を計算するためのテストデータ
 string text = "Hello, World!";
 
 // 文字列をUTF-8でエンコードしてバイト配列に変換
 byte[] data = System.Text.Encoding.UTF8.GetBytes(text);
 
 // CRC-32値を計算
 CRC32 crc32 = new CRC32();
 uint crcValue = crc32.Calculate(data);
 
 // 結果を8桁の16進数として表示
 Console.WriteLine($"CRC-32: {crcValue:X8}");