概要多重積分の種類
多重積分の種類は、以下の4種類に大別される。
- 積分領域が定数のみで決まり、被積分関数が変数分離できる場合
- 積分領域が定数のみで決まるということは、 のように個々の変数の積分範囲が定数で表されることを指す。
- 積分領域が定数のみで決まり、被積分関数が変数分離できない場合
- 被積分関数が変数分離できるということは、 のように被積分関数が一変数関数の積で表すことができることを意味する。
- 積分領域が変数に依存し、変数変換する必要がない場合
- 積分領域が変数に依存するということは、 のように、ある変数の積分範囲が別の変数の関数で表されることを意味する。
- 積分領域が変数に依存し、変数変換する必要がある場合
- 変数変換する必要があるということは、与えられた座標系では積分領域が複雑で、変数変換しないと解析的に積分できないことを指す。
積分領域が定数のみで決まり、被積分関数が変数分離できる場合
積分領域が定数のみで決まり、被積分関数が変数分離できる場合、すなわち、
となる場合を考える。
この場合、各1変数関数gk(xk)は他の変数の積分には寄与しないため、最終的に次式となり、1変数での積分の積の形に帰着する。
例題. 次の定積分を求めよ。
(1)
(2)
例題(1)、(2)ともに積分領域が定数のみで決まり、被積分関数が変数分離できるため、それぞれ独立した1変数での積分の積で表される。
(1)
(2)
積分領域が定数のみで決まり、被積分関数が変数分離できない場合
ある変数で積分する際は他の変数を固定(定数とみなして)して積分して、次の変数で積分する際も同様に他の変数を固定して積分・・・を繰り返す。
積分変数を逐次変えて積分を進めていくことから、このような積分を逐次積分と呼ぶ。
例えば、被積分関数が2変数関数f(x, y)の場合、先にyを固定してxで積分して、次にyで積分するという手順となる。
積分変数を選ぶ順番、例えば、上記の場合では、先にxで積分するかyで積分するかは物理数学の範囲では特に気にしなくてよい。
もし、何らかの指定がある場合は、その順序で計算する。
例題. 次の重積分を求めよ。
(1)
(2)
(1)
(2)
として部分積分を用いる。
次に、 として部分積分を用いる。</math>
積分領域が変数に依存し、変数変換する必要がない場合
与えられた座標系でそのまま積分できる(変数変換する必要がない)場合から扱う。
このパターンの最大の特徴は、積分する順番が決まっていることであり、最初に積分領域が変数に依存する積分から実行する。
例えば、2変数関数f(x, y)を のように積分する場合、yの積分範囲がxに依存するため、先にyで積分した後にxで積分するという順番をとる。
この順番になる理由は、yでの積分結果がxの関数になるためであり、これを先に計算しないとxでの積分の被積分関数が決定しないからである。
そのため、被積分関数が変数分離できる場合でも、同時並行で各変数での積分を実行することはできない。
積分領域が変数に依存する積分から実行して、他の変数の積分の被積分関数を決定させる必要がある。
例題. 次の重積分を求めよ。
(1)
(2)
(1)
積分領域は下図のようになる。
被積分関数が変数分離できる形であるが、yの積分がxに依存しているため、まず、yで積分する。
次に、xで積分する。
ここで、第2項において、 とおいて変数変換を行う。
となる。
また、 となる。
上記を代入すると、以下のようになる。
(2)
積分領域は下図のようになる。
まず、yでの積分がxに依存しているため、yで積分する。
次に、xで積分する。
積分領域が変数に依存し、変数変換する必要がある場合
上記までのパターンでは、積分領域が比較的単純だった。
しかし、積分領域が複雑になる場合、計算が煩雑になったり、そもそも与えられた座標系では解析的に積分できない場合がある。
その場合には、座標変換によって積分変数の変換を行い、積分領域を単純化した上で積分計算を進めていく。
積分変数の変換は、次のように行う。
ある多変数関数f(x1, ..., xn)について、領域Dにわたって積分することを考える。
ここで、 の変数変換を行う場合、変数変換後の領域をD'とする時、
上記の積分は、次式のようになる。
ここで、 は、ヤコビアンの絶対値である。
すなわち、積分変数を変換したのち、被積分関数にヤコビアンの絶対値を乗算すればよい。
例題. 次の重積分を求めよ。
(1)
(2)
(1)
与えられた座標系では、積分領域Dは下図左のようにドーナツ型になる。
まず、極座標系(r, θ)に座標変換する。
この時、新たな積分領域D'は下図右のようになる。
また、ヤコビアンは、 となるため、求める多重積分は次式となる。
(2)
与えられた座標系では、積分領域Dは下図のように半球型になる。
そのため、極座標系 に座標変換する。
また、ヤコビアンは、 となる。
したがって、求める多重積分は次式となる。
2重積分の極座標変換
軸対称や球対称の関数を積分する際に用いられる極座標による積分である。
積分範囲の中に円 が含まれている。
このように、円が含まれている時は極座標変換 とおく。
( は半径のため必ず 以上、 は最大でも1周分なので または の制約がかかる点に注意する)
ここで変数変換をおこなったのでヤコビアンを計算して と の関係式を求める必要がある。
したがって、 となる。
積分範囲は となり、
のため、 となる。
かつ を満たすような は なので、
変換後の積分範囲 は の形に変換でき、2重積分を計算することができる。
ここで、更に変数変換を行う。
とおくと、 となり、変数 の積分範囲は、 となる。
2重積分の極座標変換 (楕円の場合)
領域が円ではなく楕円の場合も、極座標変換して2重積分を行うことができる。
領域が楕円の場合、分母にある , を消すために、極座標変換 とおく。
ヤコビアンを計算して、 と の関係式を求める。
よって、 となる。
また、積分範囲は となるので、
変換後の積分範囲 は、 の形にできる。