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* Dutyを変更すると、偶数次高調波が発生するがスペクトラムのピークには影響しない。基本波のスペクトラムは減衰する。
* Dutyを変更すると、偶数次高調波が発生するがスペクトラムのピークには影響しない。基本波のスペクトラムは減衰する。
* 立ち上がりのみ遅くすると、trの成分がより低い周波数から減衰する。
* 立ち上がりのみ遅くすると、trの成分がより低い周波数から減衰する。
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== ノーマル(ディファレンシャル)モードノイズとコモンモードノイズ : 原因と対策 ==
電磁妨害EMIは、伝導ノイズと放射ノイズの2種類ある。<br>
そのうち、伝導ノイズは伝導の仕方によって、ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズとコモンモードノイズの2種類に分類できる。<br>
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このセクションでは、これら2種類のノイズと性質について記載する。<br>
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下図に、ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズとコモンモードノイズの違いを示す。<br>
下図では、筐体にPCBが設置されており、外部電源から給電されている。<br>
* ディファレンシャルモードノイズ
*: ノイズ源が電源ラインに対して直列に入り電源電流と同じ方向にノイズ電流が流れて、電源ライン間に発生する。
*: 行きと戻りの向きが逆になることから、ディファレンシャルモードと呼ばれる。
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* コモンモードノイズ
*: 浮遊容量等を介して漏れたノイズ電流が、グランドを経由して電源ラインに戻ってくるノイズである。
*: 電源の+側と-側で流れるノイズ電流の向きが同じことから、コモンモードと呼ばれる。
*: 電源ライン間には、ノイズ電圧は発生しない。
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これらは伝導ノイズであるが、電源ラインにノイズ電流が流れるため、ノイズは放射される。<br>
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ディファレンシャルモードノイズによる放射の電界強度Edは、下図左の式で表すことができる。<br>
ここで、Idはディファレンシャルモードでのノイズ電流、rは観測点までの距離、fはノイズ周波数である。<br>
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ディファレンシャルモードノイズは、ノイズ電流ループが作られるので、ループ面積Sが重要なファクタになる。<br>
図と式が示すように、他の要素が一定だとすると、ループ面積が大きくなれば電界強度は高くなる。<br>
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コモンモードノイズによる放射の電界強度Ecは、下図右の式で表すことができる。<br>
図と式が示すように、ケーブル長Lが重要なファクタになる。<br>
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ここで、それぞれのノイズによる放射の特徴を確認するために、実際の数値を入れて電界強度を計算する。(条件は同じ)<br>
電界強度の観測点を青色のドットで示す。<br>
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この計算結果で重要なことは、同じノイズ電流値でもコモンモードノイズによる放射が遥に大きい点である。<br>
これらの伝導ノイズおよび放射ノイズ(EMI)が、許容範囲を超えるようであれば、ノイズ対策をする必要がある。<br>
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<u>特に、放射ノイズ対策を考える場合、コモンモードノイズに対する対策が重要になる。</u><br>
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最も原則的なノイズ対策として、<br>
デファレンシャルモードノイズの場合はループ面積Sを減らす(例 : ケーブルは撚り線にする)、コモンモードノイズの場合はケーブルを極力短くする等がある。<br>
しかし、配置や部材の制限があるため、フィルタの追加等を検討する必要がある。<br>
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<u>※キーポイント</u><br>
* 電磁妨害EMIは大きく「伝導ノイズ」と「放射ノイズ」の2つに分けられる。
* 伝導ノイズはディファレンシャル(ノーマル)モードノイズとコモンモードノイズの2種類に分類できる。
* 放射に関しては、ディファレンシャルモードノイズはラインのループ面積、コモンモードノイズはライン長が重要なファクタになる。
* 条件が同じでも、コモンモードノイズによる放射はディファレンシャルモードノイズより遥に大きいので注意する。
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[[カテゴリ:電子回路]]
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2021年2月4日 (木) 01:59時点における版

概要

ここでは、スイッチング電源に関するEMCやその対策等を記載する。
まず、EMCに関する基礎的なことを確認した後、ノイズ対策を記載する。


EMCとは

EMC(Electromagnetic Compatibility)とは、他の機器に電磁妨害を与えず、他の機器から電磁妨害を受けても本来の性能を維持することである。
両方の性能を両立させる必要性から、電磁両立性または電磁適合性と呼ばれている。

"他の機器に電磁妨害を与えず"とは、このような配慮をしない場合、他の機器に電磁妨害を与えることを意味する。
EMI(Electromagnetic Interference)は、電磁妨害(電磁干渉、電磁障害)を表す言葉である。
電磁波を出すことが妨害につながることから、Emission(放射、放出)という言葉と対で使用されることがよくある。
例えば、スイッチング電源の場合、スイッチングによってスイッチングノイズが発生することが該当する。

"他の機器から電磁妨害を受けても"とは、このような配慮をしない場合、他の機器から電磁妨害を受けることを意味する。
EMS(Electromagnetic Susceptibility)は、電磁感受性を表す言葉である。
EMSには、Immunity(耐性、耐量、排除能力)が対で使用される。
EMIを受けても、誤動作等の障害を起こさない耐性が求められる。
EMIの種類として、伝導ノイズと放射(輻射)ノイズがある。
伝導ノイズは、ワイヤや基板配線を経由して伝わるノイズであり、放射(輻射)ノイズは、空中に放出(放射)されるノイズである。

以下のように、EMIとEMSに対して、EMSではそれぞれに耐量が求められる。

  • EMC(電磁両立性)
    • EMI(電磁妨害)
      • CE(Conducted Emission : 伝導ノイズ)
      • RE(Radiated Emission : 放射ノイズ)
    • EMS(電磁感受性)
      • CI(Conducted Immunity : 伝導耐量)
      • RI(Radiated Immunity : 放射耐量)


EMCは、EMIとEMSが規格や規制を満足するかどうかが論点となるものである。
下表に、上記の説明をまとめたものを示す。

用語 意味 特記
EMC
(Electromagnetic Compatibility)
電磁両立性、電磁適合性
他の機器に電磁妨害を与えず、
他の機器から電磁妨害を受けても
本来の性能を維持すること。
EMIとEMS両方の性能を両立させる必要性から
電磁両立性と呼ばれる。
EMI
(Electromagnetic Interference)
電磁妨害、電磁干渉、電磁障害
電磁波の放射 / 放出(Emission)による他への妨害。 EMCの観点から、EMIを出さない、または、
最小限にとどめることを要求される。
EMS
(Electromagnetic Susceptibility)
電磁感受性
電磁波妨害(EMI)に対する耐性(Immunity) EMCの観点から、EMIを受けても
障害が発生しない耐性を要求される。
伝導ノイズ
(Conducted Emission)
ワイヤや基板配線を経由して伝わるノイズ
放射(輻射)ノイズ
(Radiated Emission)
空中に放出(放射)されるノイズ


※キーポイント

  • EMC(電磁両立性、電磁適合性)とは、EMIとEMSの両方の性能を両立することを意味する。
  • EMI(電磁妨害、電磁干渉、電磁障害)とは、電磁波の放射 / 放出(Emission)による他への妨害。
  • EMS(電磁感受性)とは、電磁波妨害(EMI)に対する耐性(Immunity)



スペクトラムの基礎

スペクトラムの概要

スペクトラムとは、電磁波をその成分の正弦波に分解して波長の順に並べたものであり、
複雑な組成をもつものを単純な成分に分解して、それを特徴付けるある量の大小に従って成分を並べたものである。

ここでは、電気信号のスペクトラムを扱う。
具体的には、スペクトラムアナライザによる横軸を周波数、縦軸を電力または電圧とするデータを使用して記載する。

ここでは、電気信号はスイッチング信号を前提にしている。
下図に、スイッチング信号をイメージしたパルス波形のtw(パルス幅)とts(立ち上がり / 立ち下がり時間)を示す。

下図中央のグラフは、フーリエ変換による理論上のパルス波形のスペクトラムである。
周波数が高くなるにつれて振幅が減衰し、減衰の傾きがtwおよびtsによって変わる。

下図右のグラフは、パルスのtsを遅くした時のスペクトラムの変化を示す。
傾きが-40[dB/dec]に変化する1/πtsの周波数は低くなるが、結果的に以後の振幅が減少することになる。
端的に言えば、tsを遅くするとスペクトラムの振幅が減衰することになる。

図. スイッチング電源のパルス波形のスペクトラム



波形変化とスペクトラムの変化

このセクションでは、スペクトラムアナライザのデータを使用して、周波数等の他のパラメータの変化に対するスペクトラムの変化を見る。

ポイントとなるのは、信号波形の変化に対して、スペクトラムがどういった傾向で変化するのかである。
これは、スイッチング電源回路のスイッチングに関するスペクトラムから、EMCへの対応を解析して対策するために必要な知識である。

下図のグラフは、比較の基となるデフォルト条件でのデータである。
条件は、振幅10[V]、周波数400[kHz]、Duty(デューティサイクル)50[%]、tr/tf(立ち上がり時間 / 立ち下がり時間)10[ns]としている。

下図中央のグラフは、n次高調波と振幅(V)を示す。
1倍の周波数(基本波)である400[kHz]の成分が最大で、奇数倍の周波数にスペクトラムが出現している。
高調波は奇数次のみ出現する理由は、Dutyが50[%]=1:1のスペクトラムの特徴である。
各成分の大きさは、基本波成分の1/次数であり、例えば、3次成分は1/3、n次の高調波成分は1/nとなる。

下図右のグラフは、振幅を[dBµV]とした対数グラフである。
[dBμV]は、1µVの電圧を基準とする電圧比によるデシベル値である。

図.



  1. 周波数を2[MHz]に変更したスペクトラム。
    周波数 - 振幅(dBµV)のグラフで明らかなように、周波数が高くなると全体的に振幅が増加していることがわかる。
    図.

  2. trとtfの両方を100[ns]に遅くしたスペクトラム。
    これは上記の図で記載した通り、-40[dB/dec]の減衰に入る周波数が低くなり、スペクトラムの振幅は減衰する。
    図.

  3. Dutyを50[%]から20[%]にした時のスペクトラム。
    Dutyが1:1ではないため、偶数次高調波が発生するが、基本的にピークには変動はない。
    パルス幅twが狭くなったことで、基本波のスペクトラムの振幅は減衰する。
    図.

  4. 下図は、tr(立ち上がり時間)のみを遅くした場合のグラフである。
    trに関する成分が、trが遅くなったことでより低い周波数から減衰している。
    図.


上図のグラフより、周波数が低く、立ち上がり / 立ち下がりが遅い場合、スペクトラムは減衰することがわかる。 EMCの観点からは、スペクトラムの振幅が低い方が有利になる。

  • 周波数を高くする
    全体的にスペクトラムの振幅が増加する。
  • 立ち上がり/下りを遅くする。
    -40[dB/dec]の減衰に入る周波数が低くなり、スペクトラムの振幅は減衰する。
  • Duty変更
    偶数次高調波が発生するがスペクトラムのピークには影響しない。
    基本波のスペクトラムは減衰する。
  • 立ち上がりのみ遅くする
    trの成分がより低い周波数から減衰する。


※キーポイント

  • 周波数を高くすると、全体的にスペクトラムの振幅が増加する。
  • 立ち上がり/下がりを遅くすると、-40dB/decの減衰に入る周波数が低くなり、スペクトラムの振幅は減衰する。
  • Dutyを変更すると、偶数次高調波が発生するがスペクトラムのピークには影響しない。基本波のスペクトラムは減衰する。
  • 立ち上がりのみ遅くすると、trの成分がより低い周波数から減衰する。



ノーマル(ディファレンシャル)モードノイズとコモンモードノイズ : 原因と対策

電磁妨害EMIは、伝導ノイズと放射ノイズの2種類ある。
そのうち、伝導ノイズは伝導の仕方によって、ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズとコモンモードノイズの2種類に分類できる。

このセクションでは、これら2種類のノイズと性質について記載する。

下図に、ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズとコモンモードノイズの違いを示す。
下図では、筐体にPCBが設置されており、外部電源から給電されている。

  • ディファレンシャルモードノイズ
    ノイズ源が電源ラインに対して直列に入り電源電流と同じ方向にノイズ電流が流れて、電源ライン間に発生する。
    行きと戻りの向きが逆になることから、ディファレンシャルモードと呼ばれる。

  • コモンモードノイズ
    浮遊容量等を介して漏れたノイズ電流が、グランドを経由して電源ラインに戻ってくるノイズである。
    電源の+側と-側で流れるノイズ電流の向きが同じことから、コモンモードと呼ばれる。
    電源ライン間には、ノイズ電圧は発生しない。


これらは伝導ノイズであるが、電源ラインにノイズ電流が流れるため、ノイズは放射される。

ディファレンシャルモードノイズによる放射の電界強度Edは、下図左の式で表すことができる。
ここで、Idはディファレンシャルモードでのノイズ電流、rは観測点までの距離、fはノイズ周波数である。

ディファレンシャルモードノイズは、ノイズ電流ループが作られるので、ループ面積Sが重要なファクタになる。
図と式が示すように、他の要素が一定だとすると、ループ面積が大きくなれば電界強度は高くなる。

コモンモードノイズによる放射の電界強度Ecは、下図右の式で表すことができる。
図と式が示すように、ケーブル長Lが重要なファクタになる。

図.



ここで、それぞれのノイズによる放射の特徴を確認するために、実際の数値を入れて電界強度を計算する。(条件は同じ)
電界強度の観測点を青色のドットで示す。

図.



この計算結果で重要なことは、同じノイズ電流値でもコモンモードノイズによる放射が遥に大きい点である。
これらの伝導ノイズおよび放射ノイズ(EMI)が、許容範囲を超えるようであれば、ノイズ対策をする必要がある。

特に、放射ノイズ対策を考える場合、コモンモードノイズに対する対策が重要になる。

最も原則的なノイズ対策として、
デファレンシャルモードノイズの場合はループ面積Sを減らす(例 : ケーブルは撚り線にする)、コモンモードノイズの場合はケーブルを極力短くする等がある。
しかし、配置や部材の制限があるため、フィルタの追加等を検討する必要がある。

※キーポイント

  • 電磁妨害EMIは大きく「伝導ノイズ」と「放射ノイズ」の2つに分けられる。
  • 伝導ノイズはディファレンシャル(ノーマル)モードノイズとコモンモードノイズの2種類に分類できる。
  • 放射に関しては、ディファレンシャルモードノイズはラインのループ面積、コモンモードノイズはライン長が重要なファクタになる。
  • 条件が同じでも、コモンモードノイズによる放射はディファレンシャルモードノイズより遥に大きいので注意する。